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■ 抜重解説 〜ターンの仕組み〜

2002/2 掲載 

今までの解説の中で、しばしば出てきた言葉。「抜重
何だか聞いてもイマイチ理解に苦しむ言葉だと思います。
実際滑ってみても、抜重とはどういったモノか分からないという初心者の方も多いかと思われます。

ここでは、抜重というモノをピックアップして、ターン動作を詳しく解説したいと思います。
なお、ここで解説するのは「スライドターン」の場合です。
エッジ
の立て方に付いては、解説の便宜上省かせて頂いている部分があります。

 

 進行方向を決める要素


まず、ボードの進行方向が決まる理屈を書きます。
ボードには重力が働き、高い所から低い所へ移動しようとする力が掛かります。
ゲレンデの斜面は水平ではなく、斜度が付いています。
垂直下に掛かる力は、斜面に沿って斜め下方向に掛かるのです。(下図参照)

 注)この図では矢印の長さで力の強さを表していません

重力の向きとボードの向きの組み合わせにより、斜面に沿って高い所から低い所へ落ちる力が発生します。
直滑降とは、実際のボードの進行方向とボードの向きが純粋に合わさる為、斜面に沿ってまっすぐ滑走するのです。

では、斜面での移動に関する方向を決める力の成分を書いてみます。
ボードにはエッジという、斜面に対しての強力な抵抗があります。
斜面に対して角を立てる行為は、重力と水平方向への力の合力に抗うという行為になります。
抗う力と重力による移動力がつりあった場合、物体の移動は停止します。
ボードを横に向けて停止するという行為は、合力と同じ力を発生させたという事と同じなのです。
斜面が横に傾いていない場合、ボードを真横に向けても左右の移動する力は発生しません。
純粋に重力と斜面の合力に抗う事になるのです。
よって、力の均衡が取れた瞬間、移動は停止します。

 *斜面が横方向に傾いていない場合

斜面を横方向に移動する場合には、抗う力を一方向に逃がす必要があります。
その為に、ボードを斜めに向ける必要があるのです。
停止する場合には斜面での進行方向に対して垂直にボードを向けますが、横方向に移動する際にはある程度角度を緩めます。

 注)この図での矢印の長さは力の強さではありません。

進行方向が決まる理屈を大まかに説明してみました。
今まで説明してきた内容は、原則としてエッジを立てた場合の「ズレ」を無視した内容です。
実際にはエッジを立てた場合に慣性の法則が適用され、さらに方向を決める要素が増えることになります。
俗に言うボードの「ズレ」です。
このズレを加味して、ボードの角度を決める必要があるのです。

ターンという行為は、自分の意思で進行方向を決める為にボードの角度を変化させる行為です。
滑りながら角度を変更する場合、何も考えずにボードの角度を変えようとしてもなかなか変わらないのです。
ターンをする場合、ボードの角度を変えるために「支点」という点が必要になります。
それと同時に「力点」、「作用点」が必要です。 そう、”テコの原理”です。
この場合は力を増幅させる為ではなく、スムーズにボードの角度を変更するためにテコの原理を利用します。
スノーボードで言うと、下の図の様にそれぞれ「点」が取られます。

前足が支点、後足が力点、テールが作用点になります。
力点である後ろ足を矢印方向に移動させると、作用点であるテールが矢印方向に移動します。
これにより、ボードの向きが決まり、横方向への移動が始まる事になります。
作用点に掛かる抵抗が少なければ少ない程、力点に掛ける力は少なく済みます。
これはテコの原理を逆にたどった場合の理屈通りです。
力点に掛ける力が少ない=スムーズなターン動作
となる訳です。

では、どのようにすれば作用点に掛かる抵抗を少なく出来るのでしょうか?

世の中でもっとも有名な抵抗と言えば「摩擦抵抗」です。
この摩擦抵抗の強さは、接触面のμ(ミュー:摩擦係数)も関係ありますが、ターン動作の場合でもっとも大きい要素となるのが ボードに掛かる重心です。
前述した「支点」とは、ボードの重心の事なのです。
この重心が前足に乗っている場合、作用点となるテールに掛かる摩擦抵抗が一番少なくなります。
逆に前足より後ろ側に支点がある場合、支点が後ろに行くに連れて作用点であるテールの摩擦抵抗が大きくなって行きます。
前足より前に支点を取ると、ボードに乗っている人間の体勢バランスの面で不安定になります。

スムーズなターン動作とは、前足重心で実現可能である
と言えます。

初心者の方で多く見られがちなのが、後ろ重心(後傾)であるためにスムーズな動作が出来ていない光景です。
後ろ重心であるために、作用点の摩擦抵抗が大きくなり、狙った角度を出すための力点での力が不足するのです。
怖がらずに前足重心で滑れる様に頑張りましょう。
1本滑った後で後足が異常に疲れるのは、後足重心である証拠です。

 

 抜重の必要性


前述の事を踏まえて、ターン動作を実行してみる事にしましょう。
まず、直滑降の状態からフロントサイドバックサイドそれぞれに滑ることは容易だと思われます。
しかし、ただ角度を変えただけではこれ以後の動作が出来ない事に気づかれると思います。
初めに出した角度を変化させられないのです。
ここがスノーボードを教える場合に説明しにくい部分なのです。

先ほど”テコの原理”を利用した角度の出し方を書きました。
実は実際滑る場合には、ちょっと言葉不足な説明なのです。
「支点」「力点」「作用点」の他に、もう1つ重要な要素があるのです。
それが「抜重」です。

抜重とは何かというと、地球の重力に逆らう動作と言えば分かりやすいと思います。
ボードに乗った人間の重みを一瞬少なくする動作の事なのです。
抜重には2種類あります。
身伸抜重
屈伸抜重です。

身伸抜重とは、しゃがんだ状態からジャンプするように空中に向かって体を伸び上げる動作です。
屈伸抜重
とは、身伸抜重とは逆に、一瞬しゃがみ込む動作です。
この様な動作を行うと、ボードに掛かっている自分の重みを一瞬だけ少なくする事が出来るのです。
試しに体重計に乗り、それぞれの抜重動作を行なってみて下さい。
実際に体重計の数値が一瞬少なく変化するのが分かります。

では、この抜重という行動はどのような場面で行なうんでしょうか?
ただまっすぐに滑っている場合には抜重は必要ありません。
ボードに掛かる重みは、直滑降の場合には殆ど影響がないのです。
抜重が必要な瞬間とは、ターンの動作でエッジを切り替える瞬間なのです。
エッジ
を切り替えると言うのは、斜滑走している時に立てているエッジとは反対のエッジを立てるようにする行為の事です。
これは、むやみやたら適当な時に切り替えると逆エッジになります。

 →切り替え動作→

 

 

 

 →むやみやたら→

切り替え動作で抜重が必要な瞬間を図で書き表すと、以下のような感じになります。
図の上が山側、下が谷側です。

まさにエッジが切り替わる瞬間に必要なのです。 ほんの一瞬です。
この一瞬で抜重出来るかどうかにターンの成功が懸かっているのです。

なぜ抜重して、自分の体重を一瞬少なくするとターンが成功するのでしょうか?

これは、作用点の移動角度が多く必要なため、同じ短時間でより多くの角度を出さなければいけないからです。
ターンに入る前から終わるまでのボードの角度を見てください。

今度は直滑降状態からの進路変更の場合の角度の変化です。

必要角度が倍近く違う事が分かりますね。
上の図で必要な位の角度を得るためには、少しでも作用点の抵抗を無さないと実現出来ません。

角度の面からの抜重の必要性はお分かり頂けたかと思われます。
でも、実際ターンをしてみると、もっと大切な事に気が付くと思います。
それは、エッジの切り替えの行為自体が抜重なしではスムーズに行なえないと言う事です。
実際、上手くやると抜重なしでも切り替えは可能なのですが、これでは上達出来ません。 
ある意味上手いとも言えますが(笑)

反対側のエッジに切り替える瞬間の理想は、ボードが空中にあると言う事です。
これなら抵抗はゼロに極めて近くなる事となり、逆エッジを食らう事も皆無です。
しかし、実際には高度なテクニック(エアターン)ですので、空中に飛ぶとまでは行かないまでも、それに近い状態になる必要があります。
その為に抜重をするのです。

抜重の必要な場面は、ターンに特筆すると

* ターン時の角度を得る場面
* エッジを切り替える場面

となる訳です。

身伸抜重のイメージは、「ポンポン跳ねるボール」です。
跳ねてボールが空中にある瞬間が抜重している瞬間です。
体をリズム良く弾ませると、そのリズムでターンをつなぐ事が出来ます。
リズムを早く取るとショートターン、遅く取るとロングターンです。

屈伸抜重のイメージは、「長縄跳び」です。
身伸抜重
と同じく跳ねるのですが、長縄跳びは頭上に縄が通過するために、頭の位置を固定しなくてはいけませんよね?
下半身だけを動かすイメージです。
この抜重は、ハイスピードランやコブ滑走でよく行ないます。
身伸抜重
ではリズム的に追いつかない場合、この屈伸抜重でリズムを取ります。
スキー種目のモーグルを見ると、屈伸抜重のイメージが浮かぶと思われます。